寒天好き

寒天を愛でよう。 古い日記を掘り起こせ。

好ましい青年と出会う。 どの角度から見ても好ましいので、好ましい青年と呼んでもいいかしら。ぼくで良ければそう呼んでください。お返事さえ好ましい。 その好ましい青年の鼻には槍が刺さっており、大変に興味深い。その槍はおそらく木製だ。鼻に木製槍を刺していながら …
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発熱のからだのほてりは、酒に酔ったときのそれと似ているのだろうか。甘えた声で電話をしてやさしくされれば、よけいにさみしさを自覚した。 風呂上りの息子がさむいさむいとやってきた。ほらおいで、とあたたまった蒲団のなかへ招き入れる。ほどなくして彼はすやすやと寝 …
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あったものがなくなる。 無くなってあったことに気付く。 結構必要なんだなって。 無くなる事がなかったら気付かなかった。 あるのが当たり前だと思ってた。 チョチョンと突いて筆箱にしまった。 角が無くなったケシゴムを。 …
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きょうは お休みだったので 白い紙にたくさんおまじないのことばを書き綴った書き綴って綴っていたら おばあさんがきて ねぇ すき焼きを食べましょうと言ってきた迷ったけど 食べにいくことにして おまじないをまたした …
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親友の初七日である。  1週間泣きすぎて、瞼が腫れている。 こどもの幼稚園の庭を抜けると、昔通った大学のグラウンドに出た。 愛していた大木も見える。 霧が立ち込め、向こうの森が水墨画のようだ。  あまりに美しいので写真に撮ろうとするが、うまくいかない。  …
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知人と喧嘩をする。 これでもかという程にお互いが不機嫌である。 そのうちに黙りこむ。 これでもかと黙りこむ。 少し離れて黙りこむ。 そうしているうちに凹んで体が右によじれてきてしまった。仲直りとかちらっと浮かぶ。しかしなんとなくよじれている。そうしている …
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線路を挟んで家の向こう側にある田んぼを眺めてみた。 住宅地に時代錯誤的に生き残る小さな田は、夕焼けの紅色に染まっていた。 昔はもっと大きな田んぼだったっけかなぁと、線路のこちらにはこの10年の新参者である私はぼんやり過去をおもう。 すると田はタになるのだっ …
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映画を一本観て、本をニ冊交互に読んでいる。努めて理解しようと映画を観て、本はさらりと読み流そうとしていたが、いちいち胸に響いた。あのひとがどんな顔をしていたか、思い出せない。顔以外の、たとえば後ろ姿ははっきりと眼に浮かべることができるのだが。自分の愛する …
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以前から気になって私なりににじり寄っていた好きな人に 告白する前に拒否された。 罵倒することも軽蔑することもできず ただ呆然と電話を撫でていた。 あまり撫でていて いちにちがおわってしまいそうになったので 商店街を闊歩してみた。 闊歩していると気分がよく …
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『そりゃ、なんてったって       うつくしいんだ、とても。』 汗ばみながら、彼は話す。 ツチ、キヌタ、アブミ骨。 耳のなかに存在している、ちいさなちいさな宝物。 わたしはうまくのみこみきれずにいたけれど、 彼の世界へと迷い込んでしまう。 そうして、い …
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貴方の事が好きなんですよ。 頭の中で山口さんが言うので 私は多分、山口さんを好きになった。 しかし大変なことに現実の山口さんには子どもがいて もっと大変なことに私は山口さんの娘だった。 1人娘だから大事にしなくては と 山口さんは娘さんに赤い靴を買っていた …
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昼ごろ目覚めると、隣に丸いものがいた。 そっとなでると、柔らかな産毛が生えている。 大きな桃のような風体。 鼻を近づけると、赤子のような匂い。 「かわいいね」 と声をかけると、ふるふるっと震えて消えた。 また会いたい。    …
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空があおあおとしているので洗濯物を外に干す。あまりにあおあおと光っているので、「秋刀魚でも降りそう」と呟くと、となりの奥様が「あなたの天気予報当たるんだから」と眉間に三本半のシワをよせて、甚だ迷惑そうに洗濯物を取り込んだ。部屋の中に干すらしい。私は秋刀魚 …
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朝起きると、風が少しひんやりしている。  ならば、いよいよ今日は秋服を買いに行こう、と決意する。  なぜか今年の春あたりから著しく服の好みが変わり、去年まで秋には何を着ていたのかと考えても、さっぱり思いだせないほどである。 今日探すものは、色合いが明るく …
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夕食後に音楽を聞きながら書類を整理していると、和英辞書から小さなツノをはやした子供がでてくる。小声で「おまえのにくをすこしよこせやい」と手をふりあげている。 「おまえのにくをすこしよこせやい」私の鉛筆を握って振り上げた手で駄々をこねる。 疲れていたのでと …
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ほら、見てください。赤とんぼがとんでいますよ。 タナカさんが指し示す先には、たしかに赤蜻蛉が二匹、はらはらと飛んでいた。 もうすっかり秋ですね。 でも、まだまだ夏ですよ。ほら、蝉の音が。まだまだ夏ですよ。 わたしの反論に、タナカさんはこっくりと頷いて、と …
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かなたさんがきゅうりを持ってきてくれた。 今年は暑かったのでたくさんとれたとの事。 それはいいのだが、きゅうりぼうずまでついている。豪勢である。 これ、食べられるんですか。 きゅうりの上ではねているので指でさすと、そこにつかまろうとまたはねている。 食べ …
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とてもよく晴れているので、カーテンをしめ、ビアガーデンをひらくことにする。 札幌がだだを捏ねるといけないから、ろ過はしない。 「未ろ過の地ビール」って、かわいい。 「未ろ過の地」が、とくにかわいい。 おいしいし、かわいいので、ついつい昼から飲む。 ジョッ …
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波打ち際を歩く。 爪先は夏の名残のラメ入りの、エメラルドグリーン。 小さなラインストーンが露みたいにキラリ、張り付いてる。 あんまり波がまとわりつくようなので足をとめると、 しゃわしゃわと足元に寄せてくるのは、小さな小さな魚たちで、 銀色の鱗を光らせなが …
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熱を出したのでアイスノンをとりにいくと、くらげになっていた。 聴けばささやくような声で ここで泳いでいたけどあんまり寒いから…と呟く。 私のアイスノン知らない?冷やしたいんだけど と言うと、 調度いいから温めてくださる?と囁く。雌らしい。 頭が朦朧とする …
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空はいちにち曇っていたけれどいまも雨は降っていない。 遠くから踏切の音がやってきては、きえる。 暑い日が続くけれどすくなくとも今日の、この夜だけは春でもなく夏でもない。 わずかばかり開けた窓から、ひんやりとする風を受け入れながら、今日だけはなにも着ずにベ …
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ロールケーキを、もらった。 素敵な人から。 さささっと食べて、ケーキを入れてあった紙袋は大事にしまった。 きれいに折り畳みながら、この紙袋を、大切にしよう、と思った。 窓から外を見る。 そこは宇宙。 地球に帰ったら、三番目に会いにいこう。 そしてロールケ …
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このごろ、自分が自分でないような気がしていた。 なんでだろう、どうしてだろう・・・考えても答えがでてこない。 そこで、おたぬきさまのところへ行って聞いてきた。 「あなたの頭の上あたりにねこが見えます。 こう、両手を広げて体全体におおいかぶさっています」  …
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空を泳ぐこいを今年は見ていない 泳いで何処かに行ってしまったのだろうか それとも空にたどり着いてないのだろうか 空を泳ぐこいを今年はみていない   …
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お隣さんから、キレイに光るモノをもらった。 これがそのキレイに光るものですよ、と お隣さんは言うのであった。 どのくらいキレイに光るのか早く見てみたいと思うのだが、 それは深夜にならないと見られないのです、深夜でさらに 気温は摂氏十五度以下の時にしか見ら …
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 飛ばなくたっていいけれどほどかれたい  はなたれたい  貝殻のふり  ほつれた糸 小指をからませながらのつぶやき  ほどかれたいって、なにからですか  はなたれたいって、なにからですか    …
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熱にうなされて、ふと気がついたら頭の中が寒天のことでいっぱいになっていて、その寒天は牛乳寒天で小さな女の子の顔をしていてやっぱりそれは君のことだった。   …
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